ILL-BOSSTINO(THA BLUE HERB) MONTHLY REPORT 2016.09

9月。
今年の夏も暑かったね〜。こっち札幌もそうだったけど、やっぱり本州行くとそれはそれは暑かった。結構地元の人は普通っすよとか言うけどね。凄かった。

THA BLUE HERBにとっては7作目となる映像作品「ラッパーの一分」、無事に発売出来ました。当初予定より1ヶ月延期になるというTBHR史上、初めての
事態でしたが、何とかここまで来れました。川口監督、色々力を貸していただきありがとうございました。各地で延期の告知を手伝ってくれた皆様、情報を
拡散してくれた皆様、ありがとう。こっちは非常時の対処の勉強をさせてもらいました。改めて迷惑をおかけした皆様、申し訳ありませんでした。おかげで
既に先行通販も速攻完売して、その後の店頭発売も順調です。初回特典も大好評です。ジャケットも初となるフォーマットで創ってみました。これは在庫が
なくなり次第、いつものプラケースに移行します。初回特典はなくなり次第終了します。実際、相当な勢いでなくなっていってるので、まだの人はお早めに。


YOU THE ROCK★、B.I.G. JOE、般若、ライブに参加してくれて、そして映像の使用を許可してくれてありがとうございました。

B.I.G. JOE。1990年代初頭からの付き合いの果てに、あんな夜が待っているとは、ヒップホップの名のもとに起きてきた無数の奇跡の内の1つだ。少なくとも
札幌のヒップホップの歴史にはこれからもゴールの1つとして、そして越えなくてはならない壁として永久に残る事だろう。残そうとしないと残らない。俺や
俺等の歴史など、世の中の歴史書なんかに載るワケがない。言わば表の歴史が気付かない場所で俺等は事実を刻んでいるのだ。だから繰り返すが、残そうと
しないと残らない。誰かがやってくれる、語り継いでくれるなんて期待していちゃ、何も残らない。誰も憶えちゃいない。全ては流れてる。死んでった仲間や
やめてった仲間、消えてった仲間、次々現れる新しい世代の波に飲み込まれていって、あげく何もなかった事にされていくこの街の生と死の間の物語を、独り
書きとめ、口承で語って伝えていくのがラッパーなんだ。ハリボテな作り物の世界で安物のお飾りぶら下げて芸能人気取ってるような奴等とは違う。足下に
広がるそれぞれの地元の書記官を務めるのがラッパーなんだぜ。俺等は知っての通りお手手繋いで仲良くだけでは生きてこなかった。俺等の間のエピソードは
そのまま札幌のヒップホップの一大叙事詩だ。傷つけもしたし、傷つきもした。そして今も共に同じ歴史の潮流を生きている。昔よりも少しだけ落ち着いて。
ただやる時はやる。北海道から東京飛んで、年末超満員のリキッドルームで、2人でがっつりロックする。それも札幌の物語で。俺等があの時代、ススキノを
うろついていたように、今日もこの国、この世界のどこかで、金もコネも楽器も持たない奴等が、経験と度胸と言葉をテコに、全てをひっくり返してやろうと
虎視眈々とその時を狙っている事だろう。そんな奴等に観てほしい。俺がやってる事なんて、誰かに夢を与える事だと思った事はない。俺は俺の人生を切り
開くために現実を切り開いてる。だけど、あのB.I.G. JOEとのシーンには夢がある。今に始まった事じゃない。そこに映っているのは、俺や札幌の仲間達が
かつて見ていた夢だ。B.I.G. JOEがラップしている姿を見る俺、ラップしている俺を見るB.I.G. JOE。時空を超えた、今も醒めない夢。ここに残しておこう。

般若。最近はフリースタイルダンジョンのラスボスとしての存在感が大きい彼ですが、俺は般若を作品の人、そしてライブの人だと思っている。どちらが最初
だったとかではなくて、俺にとっては、だ。昔は大きなグループの一員だった般若は、当時から既にキャラは立っていた。俺はDJ BAKUとも親交が深いので、
よく話に聞いてた。でも俺は実際、それ以降のソロになってからのリリース、作品から般若というアーティストを知っていった。俺はフリースタイルバトル
自体、簡単な事をやっているとは思っていません。むしろそれを極めるためには、何だってそうだけど、作品、ライブと同じくらいの時間と努力が必要だと
思っています。俺自身のフリースタイルバトルへの意見というか気持ちは、6月のこのページで詳しく書いていますが、とにかく俺がここで言いたいのは
作品、ライブ、そしてフリースタイルバトルの3つを同時に進行させて、その全てで結果を出している般若は本当に凄い、という事実。作品とライブの両立で
すら俺はとても苦労しているし、実際にはどちらかを休んで、片方に専念しているのが俺のキャリアです。ハードでいて、ユニーク、何よりも実際にやる事
やってる。異論を挟む余地はどこにもない。やる事やってるラッパーがプロップスを得る。ヒップホップはシンプルで、そこがとても健全だと思うし、そう
あり続けていてほしいとも思う。今、現在時刻にそれを体現しているのが般若、その人だ。いつしか色々なライブ現場で出会うようになって、乾杯を重ねて、
「NEW YEAR'S DAY」を一緒に創って、少しずつお互いを知ってきた。今回のライブも年末の超忙しい時にたった1曲キックするために来てくれた。ずっと
待っていてくれた。そして遂に訪れた出番、自分のバースで躍動するあの瞬発力。ライブ終焉間近、とても重要な時間にベストな仕事を残してくれました。
フリースタイルバトルに全くコミットしていない俺というラッパーのライブにフリースタイルバトルのキングが来て、単なる勝ち負けではなく、人生を歌う。
達成感と少しの寂寥感を歌う。この映像作品に込められたメッセージそのものです。ダメ押しの説得力を与えてくれた事、感謝しかありません。リスペクト。

YOU THE ROCK★。映像を観てくれれば解ると思うけど、俺とYOU THE ROCK★のセッションシーンはこのDVDの大きなアクセントになっている。詳細は
明かさないが、そこには”痛み”が映っている。その夜、ライブをやり遂げて、ステージを引き揚げ、楽屋に向かう俺の頭の中には全てを終えた安堵感と共に
YOU THE ROCK★の事が浮かんでいた。楽屋はすぐに共演者やゲストや仲間で一杯になった。皆、良い顔してた。あと数時間で大晦日だ。皆、上がってた。
俺はYOU THE ROCK★を探したが、もういなかった。そのまま札幌に帰って、年が明けて、DVDを創る事が決まった。すぐに思ったのはYOU THE ROCK★
とのシーンについてだ。俺は最初はこのシーンの許諾は出ないと思っていた。別にそのシーンがなくても、カットしても、内容の質にはそれほど変化はない
と、それでもしょうがないと思っていた。もし逆の立場なら、俺なら許諾は出さない。あとはYOU THE ROCK★が決める事だ。3月の松本で共演が決まって
いたから、そこでどうするか、どうしたいかを聞いた。YOU THE ROCK★は「そのまま使え。あれも俺だ。あれがヒップホップの、ステージの恐さだ」と
言った。俺は正直耳を疑ったよ。でも同時にYOU THE ROCK★の凄みを知った。知れて良かったと、今は思う。その夜はお互い随分酔っていたから、翌日に
俺はもう1度、最後にメールで聞いた。すると「男に二言はねえ。使え!」と返ってきた。YOU THE ROCK★。幾多の苦難を乗り越えてきたラッパー。無論
無傷ではない。ただ、あの夜の一件をなかった事にするのを彼の”ラッパーの一分”が許さなかったのだろう、と推測する。俺の稼業は挫折から始まった。以来
挫折を遠ざけてきた。そうならないように、完全を目指してきた俺は、挫折を身の近くに置いているラッパーの強さを学んだ。バトルの何度も何度も繰り返す
勝ち負けじゃない。1度味わったら、2度と立ち直れるかの挫折を、3度4度と乗り越えてきたラッパーの強さを、だ。あのシーンから、ラッパーが何を得るの
だろうか。YOU THE ROCK★の不完全さか?それに対する俺の完全さか?もしそれらだとしたら、その人には残念ながら、モノの本質が、滅多に現れない
表現の神が与えた必見の教訓が見えてない事になる。傷を背負ってきた人間そのものの強さを、彼に取り付いて離れない挫折の亡霊を、それを宿しながらも
ヒップホップに生涯を捧げて生きる殉教者の哀しみを、そして彼に「そのまま使え。あれも俺だ」と言わしめた、YOU THE ROCK★の”ラッパーの一分”が。


インタビュー受けました。A-FILESAbema TIMESHMVCDJournal.com。ありがとうございました。


もう観てくれたかな。2時間45分の長丁場なのでね、何気にパッと観るって感じにはならないとは思いますが、時間のある時、どっぷりと浸かってください。
すぐに勝敗や結論がはっきりする事を俺も含めて人は求めたがるけれど、長い時間をかけてこそ心に沈着する事もあります。それなりの時間を経ないと、辿り
着けない心理や真理がある。未来は過去になり、過去の自分達は現在、あの夜の未来に生きている。俺は焦ってないよ。それぞれゆっくり楽しんでください。



ニューエラ製のTHA BLUE HERBの漢字ロゴのキャップ、迷彩色ヴァージョン、9月13日から当Webの通販サイトで再発売します。前回は瞬殺でした。これが
最後の生産になる見込みです。ライブ会場で売っていたTHA BLUE HERBの今年のツアーTシャツも販売します。よろしくお願いします。予告はこちらから



ここからはライブレポート。

函館。俺の生まれ故郷。4年ぶりの帰還。近年、外に出て行った人達が戻って来たり、移住して来たりとかで面白い事が始まってる感じがしていた。この日の
共演者にもそんな人達が混ざっていて、俺が生きていた頃とはもう別物になってる。時代は動いている。舞台はCOCOA。老舗だが、やるのは初めてだ。音も
照明もステージもしっかりしてて、ライブ映えする箱だった。飯はやはりイカ。札幌でも美味いの食ってるつもりだったけど、やはり全然違う。ゴチでした。
本番。4年ぶりだけあってお客の気持ちの高まりが伝わってきた。もちろんこっちも高まっていたよ。もう2度と会えない仲間を心に置き、現在、出来る事を
やらせていただきました。ありがとうございました。受け止めてくれたおかげで錦を飾れました。終演後の呑みも超楽しかった。HIROO、お疲れ様でした。

ライジングサンロックフェスティバル。4年ぶり7回目。地元札幌の路上からの登場。出番は深夜2時。レッドスターフィールドのトリ。俺はこの時間を任され
る事が決まってからずっとイメージしてきた。ある意味、今年前半のゴールとも言える。PA、照明チームも来てる。どうせやるならって事で、俺は真っ暗な
空間を創ってみたいと思っていたんだ。星が見えるかは分からないが、とにかく暗黒、そして静寂、この2点がテーマだった。夜明け前。吹きすさぶ風の中に
集まった皆。疲れと寒さも極まっている事だろう。始めよう。60分。前半と後半は最近のセット。ただ中盤の、頭上広がる宇宙と、頭脳と心のイメージ力を
一体化させる意図を持った描写、あれは、あの場のあの時間でしか出来ないものだった。思い描いていた表現を完遂出来ました。ありがとうございました。

奈良。4年ぶり3回目。その辺りは札幌も暑かったけど、そんな北海道人には信じられないくらい暑かった。驚愕でした。着いてまず東大寺行って大仏さんに
お参りして、で、もう無理ってくらいやられてしまってた。でもその分、夕方過ぎの時間は癒やしにも似た空気が漂ってたね。池の向こうに興福寺の五重塔を
見ながら良い時間を過ごしてました。会場は大きなカフェで、そこに奈良の仲間がスピーカーを入れてくれて、最高の空間が出来上がっていた。昼間の暑さに
ぐったりしてはいたが、ステージ上、あの上がりまくってるお客に出会った瞬間から90分、俺は夢中にいた。超接近戦。皆の気持ちがダイレクトに届いて、
それがとてもポジティブで、やってて泣きそうになった。ありがとうございました。乗り越えていく力を与えられました。鬼タモリ、モブ、お疲れ様でした。

東京。今年4回目。昨年末以来のリキッドルーム。奇しくもこの日は「ラッパーの一分」の発売日。ただ、それを祝うモードではなかった。何故ならこの日の
対バンはThe Birthday。2年前に札幌と釧路を一緒に回って以来。これ以上の強者はそういない。だから緊張感しかなかった。先攻は俺等。俺自身、DVDの
編集作業で何度も観ていたし、それ以前も何度も何度も立っていたリキッドルーム。でも、この夜のステージから見える景色は全く違ってた。俺等のライブを
観に来た人ももちろん沢山いてくれたけど、それを大きく上回るThe Birthdayを観に来たお客。服装とか外見じゃなくて、目を見ればすぐ解る。別にそれが
悪い感じだったって話ではなく、俺自身もそこにネガティブな気持ちを持ったワケでもない。なるほど、そうだよな、OK、しっかりやらせてもらおう。ただ
それだけ。いつもと変わらないが、それでもヒップホップを初めて観る人も多いのは事実。いつもよりも丁寧に、真摯に伝えていかなくてはならないって事。
目を見て、身振り手振りで伝えていくしかない。伝えた言葉が受け入れられるかどうか、楽しんでほしいが、楽しんでもらえるかどうかは、そこから先はもう
お客の領分だ。まずは伝える事だ。そんな70分。少しずつ縮まっていった心の距離、真剣味を帯びてくる視線。そして最後の別れ際、響き渡る万雷の拍手!
ありがとうございました。予定調和は全くない中で、表現し切って、いつもの通り、笑って、報われて、別れられた。消耗は激しかったが、でも、チャレンジ
して良かったと心から思えた。あとは先輩達に任せよう。後攻、The Birthday。観るのは今年のアラバキ以来。今回も爆裂しまくってた。野外で観るよりも
エネルギーが溜まって渦巻く感じが圧巻極まっていた。演奏も佇まいもお客との信頼も、全てのスケールが半端なかったです。そして最後は1曲セッション。
俺のソロ曲「ABOVE THE WALL」をThe Birthdayが再構築&演奏してくれて、その上でラップするという超贅沢な時間でした。胸がドキドキしてたなぁ。
リハの段階で鳥肌凄かったもんな。頑張って続けていれば、たまにこんなご褒美があるんだな。The Birthdayを全開で楽しんだ後のオーディエンスも最幸な
ノリで上げてくれて嬉しかったです。The Birthdayの皆さん、厳しくて険しくて、でも楽しすぎる時間をありがとうございました。東田、お疲れ様でした。


9月のライブは計6本。どちらも初登場となるBAYCAMPとSUNSET LIVE。昨年末以来となる地元札幌での連夜2本。そして久々の中野ヘビーシック。からの
こちらも初登場となるりんご音楽祭でバシッと締めます。10月、11月はライブは休みます。各街、お近くの方々、もしタイミング合ったら派手に遊ぼうぜ。

久々にCALMさんとのJAPANESE SYNCHRO SYSTEMでDJします。16日東京青山ゼロ。18日北海道北見UNDERSTAND。こんな感じでやってます

夏の終わり、まだまだしぶとく楽しみましょう〜。

ILL-B