MESSAGE FROM BOSS

2009.2.2(#2)
ここまで俺等の内面に踏み込んだメディアは今までなかったと思う。別に意識して隠していたわけではないけれど。あの秋の日々、俺等は何日も同じ車に乗って、同じ飯を喰って、同じヤマを乗り越えてきた。ステージでパフォーマンスを披露する側、そしてバックアップする側、進行をサポートする側、皆、それぞれの仕事を抱えていた。皆、一杯一杯だった。そしてその間、寡黙にカメラは回されていた。カメラを意識して、クールに作為的に振る舞う余裕なんて、あの苛烈なスケジュールにはどこにもなかった。でも、笑いは常にあった。だから俺等は本当に自然に映っている。画面の中、ありのまま生きている。疲れてたり、居眠りしたり、へこんでたり。笑ってたり、笑わせてたり・・・。気付けば森田貴宏のカメラと向き合って、今年の5月2日でちょうど10年だ。長い時間だ。ここまでの付き合いになるとは最初は思わなかった。でも、事実、10年経った。ある時は俺等のホームの札幌で、またある時は彼のホームの中野で、そして日本各地の真夜中の現場で、ニューヨークで、彼は俺を撮っていた。お互い、よく話し、議論し、性格も少しずつ
理解し、同じ部分、異なる部分も理解してきた。THA BLUE HERBの思想を信じて、変化を共感して、体一つでずっとカメラを担いで、俺がラップするのと同じ時間、撮ってくれている。そして何よりも、無数のオーディエンスと過ごしてきた歴史を、つまり誰かが去り誰かが新たに加わることを、延々と繰り返す長い長い歴史を、ずっと俺等と森田貴宏は共に歩んできた。今では仕事のスケールも随分デカくなったけど、年もとったけど、地元も離れずに、お互いの距離は変わらずに、相変わらず笑いが好きで、笑えねえ仕事は一切しねえで、笑いが合わないヤツとはつるまねえで、ここまで生き残ってきた。

話がそれた。DISC 1はそんな毎日の繰り返し。晴れの日、雨の日、良かった日、良くなかった日、初めての街、久しぶりの街、よく行く街、満員の街、ガラガラの街、時と場所が、いつ、どこであれ、やるべきことは一つだけ。つまり各街のオーディエンスの前で魂を焦がす毎日。徐々に蓄積されていく疲労や挫折感、そしてそれを少しだけ上回る希望と達成感。探し続けるがなかなか見つからない、送り手と受け手が、完璧に、共感を、熱狂的に共有する「秋の輝き」。そして終わりがないかに見えていた果てしない道のりの、はるか地平の向こう側にやがてぼんやりと見えてくる1つのキーワード。ツアーファイナル、東京リキッドルーム。仙台、盛岡、青森、宇都宮、浜松、金沢、京都、高松、高知、松山、広島、福岡、長崎、熊本、鹿児島、宮崎の16ラウンドを終え、自信と、しかし消えない不安を忍ばせながら、最後にそびえる巨大なヤマ、東京リキッドルームに向かって旅立つ時点までがDISC 1。

DISC 2はファイナル、東京リキッドルームでの伝説になった夜。ツアーのどん詰まり。これ以上はない最後の大立ち回り。これは先に言っておくけど、最初から最後まで全て収録したかったんだが、権利関係が入り組んでいて、2曲だけ収録出来なかった。すまん。ま、その2曲はそこでしか、底でしか聴けない曲ってことだ。この世界、そういう曲もあるってことよ。そう理解してくれ。そうは言っても全26曲。超重量級なんで、ご安心を。あの熱い、心が開かれたオーディエンス達との一進一退の魂の交換。ずっと探していた「秋の輝き」は手に入れることが出来たのか?そしてその輝きの明るさとは?

’07年の春「LIFE STORY」リリース後、DJ DYEと2人でマジで数えきれないステージを駆け抜けてきた。恐らくここで毎月語られる内容のほとんどはその月のLIVEについてであったはずだ。一体そこにいてくれたオーディエンスの何人がここを見てくれているのか?何の話をしてるのか、皆、理解してくれるだろうか?色々思ってはいたが、毎月、そこにいてくれた人に感謝する繰り返しだった。そんな毎日だった。俺等が生き抜いてきたのは。再びLIVEの映像が世に出ようとしている今、俺は見送ってきた、今はもう過去に埋没してしまっているあの夜達を思い起こす。どの夜も同じではなかったし、その夜の全てをDVDに収録しているわけじゃない。映っているのは無数の夜達の、ある視点からの一つの断片に過ぎない。しかし、そこには、底には、確実に、これまでのTHA BLUE HERBの歩んできた、ノンフィクションの、完全実録の、あの10年を超える、長く曲がりくねった道のりの延長線上に実在するドラマが映っているんだ。それは、他でもなく、一緒に居合わせた君等1人1人のオーディエンスと培ってきた、壊れやすくも、気高く、繊細な関係そのものだ。バカにされ、冷やかされても絶対にやめなかった、やめさせることが出来なかった、親愛なるオーディエンスとの信頼の醸成の過程だ。そしてその過程は、1夜ごとに1つの結果を産んだのだ。あの鳴り響く拍手。満ちる理解と共感。1MCと1DJだけで、つまりは人間2人分の言葉と音
だけで、無数の人間と向き合ってきた。失敗もしたし、全ての人とシンクロ出来たとは言わない。ただはっきりしていることは、与えられた時間、正直に言いたいことを全て言い切ってきたってこと。それが正義か、真理かは、そこに意味があったかは、よくそこで、底で言ってきたけど、全て後々の歴史が決める。ここに俺は残しておく。この時代、この時間、日本に残しておく。自分等が生きた証拠映像を。オーディエンス達の真剣な想いが創り、支えた時間を。笑いと涙、あらゆる感情を。共感が唯一絶対的に支配する、あの輝く美しきエンディングを。はっきり言うけどさ、マジで一見の価値はあるぜ。

そして今月はいよいよ「SEASONAL BEST」シリーズが完結します。去年の春から季節毎、続いてきたこのDJ DYEのミックスCDシリーズも遂に冬を迎えました。「SEASONAL BEST:WINTER」、オンラインショップでの先行発売が2月10日。店頭発売が2月16日です。今回もかなーりドープなミックスとなってます。標高5000mのチベット高原を思わせる、札幌のコアなダンスフロアーではクラシックとなっている曲から始まり、修行僧の歩みの如く、寡黙に、ストイックにミックスは綴られます。そこから最後はいつもの日本のダンスフロアーまでの、冬の脳内音楽旅行。お楽しみに。


健康で。
ILL-B



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