INTERVIEW
BY YUKO ASANUMA

ILL-BOSSTINO
#3[制作過程 Pt.2]


●リリックはトラックを聴いて書くんですか?

いや、トラック聴いて書いたやつもあるけど、リリックが先に出来てて、ONOちゃんがそれに合わせて作ってくれた曲もたくさんある。ONOちゃんもう完璧に弾けっからさ、俺のリリックの中で語られる感情の細かいとこまで音で表現できるんだ。実際そういう風に作った方がスムーズに出来た。「この夜だけは」に関しては、ああいうソウルミュージックな感じが欲しいってことを言ったし、ONOちゃんが俺のオーダーに完璧に応えてくれた。化学反応的なものではもう、作らなくなってるからさ、俺たち。昔は「何が出来るか分かんない」っていう化学反応が楽しかったけどね。ただもうそのやり方では作り尽くした。今は、奇跡に頼らなくても、自分たちで作れるんだよね。そういう自信がある。前はキャリアも経験もないから、とりあえず混ぜてみたら面白くなったってことに夢中になってたけど、そんな低い確率で音楽作るよりも、いいリリック書いて、それに合わせたいいビートを作ってくれた方が、確実にいい音楽になる。昔は、出来てみたら何とびっくり良かった、っていうのが楽しかったけど、今回は全て意図的に、細部まで二人でコントロールして作った。作るべくして作った。

● 音楽的な部分では、ある意味シンプルになったというか……

うん、なったね。すげえなった。

● 削ぎ落とされたというか。無駄がなくなったというか。

そうだね。なったね。俺も無駄なこと言わなくなったもん。「無」の境地に近い。それはきっと、逆に伝えたいことが明確だからなんだよね。だからシンプルにしようとしているわけではなくてさ、言いたいことはここからここまでだっていうのが固まってるからね。

● トラックも音数は少ないんだけど、一つ一つの音の鳴り方がすごくなった。

超濃密になってるね。バランスもきれいに取ってるしね。めっちゃ時間かけたよ、ONOちゃん。ONOちゃんのスタジオの前通ると必ず音鳴ってたもん。この2年。毎日。3枚目作るに当たって、今までも俺とONOちゃんだけで、ドラムの鳴り方から何から、全てコントロールしてやってたんだけど、今回は例えばちゃんとしたプロの人にミックス頼んで世の中の全ての音楽と比較しても遜色のない鳴りの音楽を作りたいと思ったわけよ。人に頼むか、って話にも一回なったんだけど、俺はONOちゃんに全部やってくれって言ったのさ。すごく難しいし大変だけど…… 全ての音がバランス良く聴こえて、痛くもなくて、ヴォーカルのバランスも最高良くてさ、そういうものを作って欲しいって言ってさ、ONOちゃんは2年間ずーーーーっとそれをやり続けて、出来るようになったのさ。すごいきれいなバランスで、無理がない音。そういう鳴りの進化っていうのは、目に見えにくいものなんだけど、めちゃくちゃ高い所でやってたんだよ。そういう所にまで耳がいってて、それをONOちゃんは全部一人でやった。すごい時間かけてたよ。ものすごい時間。

● O.N.O.さんの努力の賜物なわけですね?

努力したよー!ONOちゃんは。すごい努力してた。ファーストはね、そんなこと考えもしなかった。今思えばよく出来たな、ってくらい勢いだけでやってたわけさ。で、セカンドもその勢いでやりそうになったんだけど、その当時の俺たちの精一杯をやることにしたわけよ。そこから5年経って、色んな音楽聴いたしさ、セカンドの音質から今回のものに行くまでの5年の違いは、端から見ればなかなか分かりづらいと思うけど、いいシステムで鳴らしたらはっきりするよ。それくらいONOちゃんは努力してたよ。ヴォーカルとトラックのバランスなんて、0.1デシベルの次元でやってたからね。今回に関しては。俺がそういうことを知ったのはJ.S.S.からなんだけど。俺は今までね、ヴォーカル録りなんて全部一回でやってきたのさ。一回やっておしまい。やり直しなんて絶対しない、って。でもJ.S.S.で、勢いだけじゃなくてさ、録音芸術っていうか、完璧な作品の作り方っていうのを学んだんだ。それを今回もやってるから。0.1デシベルの違いなんて誰が聴いたって分かんないんだけど、それが分かるところまで聴いてたからさ。単なるリリックとビートのセッションだけでは終わらせなかった、努力が。

● ビートとラップを合わせてドンッっていうのではなくて、合わせた時点からの作業ってことですね。

そうだね。すごい気使った。

● あとは、メロディアスになった印象ですね。ラップではなく、トラックが。

なったかもね。うん、なったね。ONOちゃんあれ、全部自分で弾いてるからね。ONOちゃんが全部メロディー作ってるわけだから。誰かのメロディーを模倣して作ってるわけじゃなくて、完全にオリジナルのメロディーが弾けるようになったから、すごいよね。……努力したんだわ、あいつ。すげえ努力したんだ。




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