INTERVIEW
BY YUKO ASANUMA

ILL-BOSSTINO
#5[旅とインスピレーション Pt.2]


● 私はむしろ、特に序盤のところは好戦的というか、かなりアグレッシブな印象を受けたんですけど?

うんうん、ファーストっぽいよね。それはあると思う。

● 私の勝手な憶測では、やっぱりラップをする子、上手い子が増えて、ライバルの数という意味では格段にその数が多くなっているから、そういう意識が表れたのかな、と思ったんですけど?

ん〜? どうかな。いまだに同業者に対してそういう気持ちはあると言えばあるんだけど…… アルバム前半のあの感じというのは初動であって、自分たちのアルバム自体のスピード、加速をつけるという意識の方が強かったよ。行くとこまで行っとく、みたいな。それは俺らのライブもそうだし。最初でどれだけ突っ走るか、瞬発力で行くかっていう所だから。でも、もちろんそれだけでは終わらない速さが中盤くらいにあって、どんどん変わっていく。だから、アルバムを通して聴いてくれてる人が、最初の段階でどれだけアガるか、そのためだね。

● では、「敵」を意識したということはないんですか?

全くない。今はもう全然ない。外側に対してはない。それは彼等の問題であって、これは自分の中の問題だ。「無」だよ。俺らは俺らの歴史で生きてるっていうかさ。とは言え、3曲目で『D.I.S.』っていう、ヒップホップの悪しき、愛すべき慣習っていうか、そういう曲もやってるけど、そこでも俺は新たな答えを出してるしね。結局、罵り合うだけでは進まない、って。ライバルはたくさんいるけど、その境地まで来てる奴はいねえと思う。待ってもいられないしさ。俺らと一回り歳が違う子たちでしょ?俺が20歳のときに、35歳の奴に人生説かれたって、なかなかすぐには分かんねえって!自分で分かんねえと。だから、俺はそいつらに言うことは何もないのさ。好きなようにやりゃあいいと思うしさ。

● 確かに、最近の若いMCとか見ていても、とんでもなくスキルは高いし、面白いものが出て来ていると思うですけど、『BLAST』はなくなっちゃうし、基本的に今、日本語ラップが売れない時代と言われてるわけですよ。それはやっぱり「内輪ノリ」になってしまっているのかな、と思うんですけど。

なってると思うよ。ま、昔からそうだったけどね。でも内輪ノリになることを選んでしまってるんじゃないの?俺らの場合は、俺らが望もうが望むまいが、勝手にロックの人たちとかにも浸透していったわけでさ、結果的にヒップホップのシーンと距離が離れて今に至るわけなんだけど…… でもね、もっとね…… 面白い音楽なんてたくさんあるわけよ、面白い奴もたくさんいるし。でも、彼らはヒップホップで完結してるっていうかね。一晩で一曲目から最後の曲までが全部ヒップホップでも、彼らは楽しいわけじゃん?ま、いいと思うよ。彼等がいいのなら。でも、俺はもうそれでは満足できないんだよね。つまらない。もっと凄いものや、深いもの、楽しいものはたくさんある。今の俺は、「下らねえ、もっと色んな音楽聴いて視野広げればいいのに」って思うけど、俺もそれくらいの歳のころは一緒だったしね。
だから遅かれ早かれ、今20歳のやつも、30歳になったら、今みたいに適当に仕事して、適当に家賃分だけ稼いで、後の時間全部ラップに使って、「最高青春真っ盛り」なんてことは出来ねえから(笑)。30歳超えたら。そんなお気楽なボンボンみてえな奴の歌なんて、誰も聴かない。価値ねえ。そうなると、もっと(色んな人が)いるわけよ、世の中。色んな人がいて、人生も長くてさ、色んなことがあってさ、みんながそれぞれの状況で闘ってる。歌うべきことってのは、もっとあるんだ。俺はそう思う。「その時」になれば、そういう風に変わるか、変わらずに永遠に少年のままでいくかの選択になるわけだけど、俺はもっと歌いたいことがあるってことに気づいた。歌わなくてはいけないことが、たくさんあるって。そう思ったね。
でも、今の若い奴でフリースタイル上手い奴とかさ、そういう話とは全く別にして、純粋にすげえと思う。俺らがファーストで東京出て行ったときなんて、「昔すごかった」って奴がみんなそれなりの契約掴んでレコ社からガッツリ制作費引っ張って、それ全部下らないことに使って、結局大したもん作れなくて首切られていくっていう時代だったからさ。だから、俺は東京の奴らなんて全員下らねえって、クソみたいだって思ってた。でも今は、みんな自分達でレーベル作ってみたりとかさ、みんな挑戦してるわけじゃん?「アルバム4枚契約したぜ」なんて自慢げに言ってる奴は一人もいない。昔言ってたやつももういない。みんなもっと分かってるっていうか。もっと自分達で好きなようにやってさ、表現の幅も広がって、いろんなラッパーがいて、昔と比べると今の方が…… 俺らと同じかその上の世代と、年下の奴らだったら、はっきり言って俺若い奴らの方がリスペクトしてるよ。すごいと思う。楽しいと思う。むしろ未来があるっていうかさ。

● 年末にLibra主催のUltimate MC Battleの決勝に行ったんですけど、そこでも北海道から青森から、色んな場所で活動している子たちが集まってて。

ね?しかも実力だからね、実力だけで一番狙おうとしてるわけでしょ?すごくいいと思うよ。素晴らしいと思う。

● でも、自分達の地元でがんばっていくっていうのは、やっぱりTha Blue Herb以降の現象なんじゃないかな、と。

みんなそれまでもやってたけどね、つまりさ、ここからは言わせてもらうけど、結局フリースタイル上手くて、相手こき下ろして、相手の悪いとこばっかり上手く言えて、罵り合って誰が一番か決めるっていうのは、それもヒップホップの一部だから否定はしないけど…… 何度も言うように、音楽はそれだけじゃないんだって。俺らもそういう風にして他人削って上がって来てる人間だから、否定はしない。でもだからこそ今言える事がある。そういう相手罵ってなんぼっていうのは音楽の小さな小さな一部でしかない。もっと人の思ってること、思っていたけど口に出せなかったこととか、ずっと言いたかったけど何て言えばいいのか分からなかったこととか、それをその人の代わりに歌うことがラップであり音楽なのさ。俺はね、それがラッパーの使命だと思うわけよ。しかもそういう奴じゃねえと、絶対生き残れねえ。そういう風に思ってる部分もある。若い奴らに対してはね。でも、何度も言うけどそれも結局本人が気づくことだからさ。俺もずっと気づかなかったから。

● フリースタイルが上手いからって、いいリリックを書くとは限りませんからね。

フリースタイルもヤバくて、俺ほどの曲も書けるやつなんて、一人も知らない。俺よりフリースタイル上手い奴はたっくさんいる。それはとっくに認めてる。でも、俺が今まで書いてきた曲に一曲でも勝る曲を書いた奴がいるかっていうと、それは一人も知らない。それは、本気で思ってる。まー結局は俺にとってだけどね。どっちでもいいよ。勝ち負けはもういいよ。飽きた。どっちが楽しいか、どっちがスリルあるかってことはお客が決めることだからな。お客にとってはってとこなんだけど。CITTAに集まったお客さんがその間楽しんだなら、それでいいよ、良かったじゃん楽しい夜でなによりだ。でも俺はその同じ時間に日本のどこかで俺らの曲を聴いてくれてた人たちの気持ちの方が大事なんだ。そこで一番なんて取らなくても、ましてやブルーハーブだとか知らなくてもさ、真夜中にへべれけの奴とかさ、報われない奴とか、挫折したやつとかが年末のどん底で俺らの音楽聴いて、何て曲かも分からずにさ、引っかかる言葉を見つけてさ「もう一回やってみよう」って思ってくれる方が、俺には価値がある。俺にはね。

● より多くの人に聴いてもらいたいっていう話が出てましたけど、それだったらインディーズでやるよりもメジャーに行った方がより多くの人たちに届くと思いますが、インディーズでやることへのこだわりはまだありますか?今メジャーからオファーがあったらどうしますか?

うーん、俺多分ね、ファーストで東京行ったときに受けた何かのインタビューで、その段階で既に喋ってたし、ONOちゃんも同じことをずっと言い続けてるんだけど、別にメジャーでやることに関して、そんなに(抵抗は)ないわけよ、昔から。なぜやらないかって言ったら、クオリティー・コントロールが出来ないからなんだよね。俺はジャケットから、宣伝文句、帯の文、リリック・ノートの字体から、写真の陰影から…… もう全て決めながらやりたいんだ。それを会社の人っていうよりもチームメイト達と実現して行くのがTBHRのスタイル。そうやって今まで全てやってきたし。何から何まで。いつ、誰に何のプロモを送るか、どこの店にどのポスターをいつ送るか、その後にフライヤーをどのタイミングで出すか。でも、(メジャーに行くと)そういうことじゃなくなってくるわけじゃん?人に任せることが多くなる。そっちの方が楽だし、広くできるんだけどね。でもね、ここまでこれでやってきたから。俺は満足してるよ。はっきり言って。その、「より多くの人に聴いて欲しい」っていう気持ちを持ち続けられてる。いいチームメイトにも出会えたし。
これがもし、ドカーンって100万枚の特大ヒットになって、猫もしゃくしも知ってる、薄い理解も濃い理解も、とにかく数だけはいるってなったら、俺は多分「もっと多くの人に聴いてもらおう」なんて気持ちでアルバム絶対作らねえ。逆に。だから、向上したいとか、より多くの人に届けたい、もっとラップ上手くなりたいっていう気持ちは、今ここにいるから持てるんだよね。報われすぎて、スーパースターになっちゃったら、きっと俺もそうは思わないし、そうなったらおしまいでしょ。行くも地獄、引くも地獄ってやつだよ。今でもインディーズではあり得ないくらい売ってるけどさ、以前に、もしアホみたいな数字売ってたら、この3枚目はなかったね。はっきり言って。俺の音楽をもっとみんなに聴いて欲しいっていう気持ちが強ければ強いほど、曲は良くなるから。あんまり報われ過ぎると、多分そういう風にならなくなる。あと、そういう人たちを失うのが怖くなって、そういう人たちが喜ぶ音楽を作ればいい、ってだけになると思う。そうなったらおしまいなんだよ、俺にとっては。だから今くらいが最高いいと思うね。生活もできるし、昔ほど金ないわけじゃないけど、それでももっと多くの人に届けたい、そのために俺は何を努力すればいいのか、っていう気持ちはしっかり持ってるからね。どこかに、もっともっと聴かせたい人たちがいるわけでさ。だから、いいんだと思うよ。たくさんの人に知って欲しいと思うけど、1000人のうち800人がぎゃーぎゃー幼稚園児みたいに騒いでるようなワケわかんない客相手に歌うよりは、100人が100人、それなりに俺たちの音楽を消化して来てくれてる方がさ、俺はいい。




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