INTERVIEW
BY YUKO ASANUMA

O.N.O
#2[制作過程]


● 新しい音、新しいやり方はどうやって編み出して行ったんですか?

ひたすらやる!「作ってる時間」っていうのをいっぱい消費していないとアイディアも出てこないんだよね。例えばスランプの間って作らないじゃん?でもスランプは、ひたすら作る作業でしか抜け出せない。閃くまで、「降りてくる」までは、いっぱい時間を消費しないとだめなんだと思うんだよね。俺はそうだね。だから、ずっとここ(スタジオ)にいましたね。「こんなとこにサンクス出来たんだ〜?」、「いや、4年前からあるよ」みたいな、ね(笑)。

● 本格的に制作に取り組み始めたのはいつ?

DVD制作してた頃にはもう作り始めてた。確かTha Blue Herb最後のライブが、2004年の年末に札幌であったんだけど、俺のソロライブもその頃が最後で、それで正月から作り始めたから、2005年の1月だね。それからずっと作ってた。今までは受注分しか作らなかったっていうか、頼まれた分だけ作ってポンと渡してたんだけど、そうじゃなくて…… もう、すごい作った!そこから選んで行ったりとか、リリック読んで「雰囲気違うね」って言ってまた作り直したりとか。しかもさ、「こういう雰囲気がいい」とか言われると、すぐに俺が弾き直したりするもんだから、逆に注文も増えたしね(笑)。

● でも、それが出来るってことは、二人がイメージするものに、より近い、完成度の高いものが作れるってことですよね?

そうそう。作ったものに対して、「もっとここのメロディーはこうした方がいいね」とか、「ドラムはこうした方がいいんじゃない?」とか、そういう話し合いも増えたね。リリックに合わせてシーケンスも自由に変えていけるからさ。あらかじめ後から作り変えられるようにしておかないといけないから、それがソロと違ってすごい大変っていうか、手間がかかるんだよね。残しておくデータの量が膨大になる。

● 今は直接会ったこともないラッパーとトラックメーカーが、ネット上でファイルを交換して声とトラック合わせて、ちょちょっといじって、ハイ出来上がり、っていうことをやっている人たちもたくさんいますからね。

うん、いるね。俺も多分ね、それは得意だと思うんだよ。そういうやり方で満足してくれるラッパーがいたら。曲の頭からケツまでの流れを、俺が決めた通りにやってくれて、完全に俺がプロデュースするっていうかたちであれば。だったら、それもアリだな、と思うけど。二人じゃなくて。「Produced by DJ Premier」とかっていうのは、そういうことだよね。

● では、Tha Blue Herbに関しては完全に共同作業、共同プロデュースなわけですね?

そうだね。音じゃなくて、曲の方向性っていうところでね。

● BOSS曰く、リリックが先にあった曲もいくつかあったということですけど?

うん、あった。リリックだけもらって、それを俺が、心の中でラップしながら曲を作っていくっていうシステムでやったものもある。

● 心の中でラップ(笑)!?

なかなか難しいんだけどねぇ(笑)。俺は結構やってる。リリックもらって、それを読みながら曲作っていって、シーケンスも組んでいくっていう。ここで展開が変わっていくな、とか思いながらやっていく。面白いよ。実際BOSSがマイク入れてみたら、俺のイメージしてたラップと全然違ったりとかね。そういうこともあるけども(笑)。

● いや、正直トラックの進化の仕方がハンパないと思いましたよ。遂に来た!と。

ね〜。来た来た(笑)。俺らの音楽ってさ、特に俺はエンジニア的な作業、録りもミックスも全部自分なんだよね。そういうのも、セカンドから毎日曲作って、ミックスして……っていう、エンジニア技術も相当向上したね。セカンドのときも、自分でミックスやってたから、出したい音が出し切れなかったところもあったんだよね。そういうのも聴かせられるようになったっていうか、それを聴かせるために、「音」一個を作り込むところからやった、っていうかね。

● それ、分かりましたよ!

分かった(笑)?

● 造りとしてはシンプルになったと思ったんですよ。でも、迫力が違うっていうか。

なるほど。それは一聴するとシンプルってことだね。実は、構造はより複雑っていうか、複雑なものを作ることが短い時間で出来るようになったっていうか。より精巧に出来るようになったから、その上に乗せるものをさらに精巧に作れるようになった。結局かける時間は一緒でも、凝縮されてるから、完成度の高さが変わってくる。でも技術が上がれば上がるほど作業は増えるだけなんだけど(笑)。それをも乗り越えていくっていうかね。それと、やっぱり3枚目だからさ、新しいかたちっていうか、新しいビート、新しい曲の作り方を提示したかった。

● 個人的には、最初「C2C4」のトラックにビビりました!

あー、そう?はぁーん…… あれはね、俺にしてみれば古典的な作り方っていうかね、ああいう曲は他にもいっぱいあったんだけど、ほとんど切ったんだよ。90年代中半のUKブレイクビーツとか、そういうノリだね。そういうのが好きなTha Blue Herbファンって多いから、ああいう曲を入れたんだよね。でも、意外と俺の意図しない方向に刺さってたりする(笑)。いかにもヒップホップ的なスタイルだからかもね。多分ね、最初っからTha Blue Herb好きだったっていう人には刺さるんだと思うんだよね。「こういうの作って欲しかった」みたいな感じかな、って思って作ったから、狙い通り(笑)。

● そうだったんですか…… まんまと刺さりました(笑)。

俺はね、「PHASE 3」が一番気に入ってるっていうか、すごく新しいことが出来たと思ってるんだよね。BPMが120とか130とかないんだけど、踊れる曲にしたかった。あれはBPM100なんだけど、もっと速く感じるでしょ? 基本的にはキックで作りたかったんだけど、普通の四つ打ちで打つと、やっぱり100だと遅い印象になっちゃうんだよね。だから2拍目と3拍目を前乗りで打って、でその奥にブレイクビーツを分解したものを並べてある。そうじゃないと、リズムマシーンで打っていくと…… 俺、クォンタイズ機能かけっぱなしにするんだけど、すると「揺れ」がないんだよね。。グルーヴが少ない。だから、グルーヴを出すために、ゴーストノートから作る。ブレイクビーツをチョップしたやつをイレギュラーに置いて並べてって、それを回していってグルーヴを出しながらその他のドラムを打ち込み、ベースで四つ打ち感に仕上げる。しかも、上モノのシンセはね、4拍子じゃなくすんだよ。3拍子にする。専門的な話になってくるんだけど(笑)。上は3拍子で進んでるから、ポリリズムになるんだよね。さらに、その3拍子が2〜4小節いったところにかかってる音はさらに大きい3拍子になってて、リズム隊はちょっと変則的な4拍子で回していって、それらは大きく公倍数のところで一致して、それを徐々に、じわじわと変えていくっていう……

● そんな複雑だったんですねぇ……(汗)

そう。だからスピード感が出て、新しいグルーヴ、ヒップホップでもテクノでもないグルーヴが出来るんだよね。それで、リリックに合わせてスネアの打ちどころを変えて絡めていく。BOSSはやっぱスネアで踏みたいんだよ。だからスネアでラップに絡めてく。

● 確かにラップとトラックがめちゃくちゃ絡み合ってましたよねぇ。

そうだね。俺に言わせれば、セカンドもめちゃくちゃ絡み合ってたんだけどね!でも、ちょっと複雑すぎたっていうか、そこは理解し切れない人が多かったんだろうね。だから今回は、普通に聴かせて、でもさらに複雑になってるってことだね。BOSSのリリックがめちゃくちゃ韻踏んでるのと同じでさ。でもそれをサラリとやって、韻のとこで聴かせないっていうかさ。洗練されてるよね。

● 洗練されてる!それがぴったりの言葉ですね。

超最新だと思うわ。そう、洗練されてるんですよ!!




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